小 児 期 か ら の 生 活 習 慣
高知県小児科医会 門田正坦
成人病は、本来、成人が罹る疾病という意味であり、日本人の三大死因である癌、心臓病、脳卒中は三大成人病ということになります。その他、糖尿病、消化器潰瘍、肝硬変なども成人病の範疇に含まれています。多くの調査で、成人病の成因は、約60%が生活習慣(ライフスタイル)によるもので、約20%が環境により、あとの約20%が遺伝によるものであるといわれています。
最近、わが国においても成人病の若年化が問題になり、成人病予防は小児期から開始すべきではないかと議論されるようになり、厚生省に研究班が組織され、平成2年に小児成人病が定義されて、小児期の生活習慣(ライフスタイル)の改善などにより予防しうる成人病をいい、3群に分類されています。第1群は、成人病そのものが小児にみられるもので、若年化した成人病ということになります。糖尿病は、学校検尿の成績からも増加しており、成人型糖尿病であるインスリン非依存型糖尿病が、インスリン依存型糖尿病の五倍も多く認められ、インスリン非依存型糖尿病の80%が肥満を伴っており、まさに、小児成人病であります。虚血性心疾患による死亡例もみられるようになり、また、子どもの胃潰瘍、十二指腸潰瘍も増加しています。現代の子どものストレスに対する耐性が十分でないことがうかがえます。第2群は、日本小児の剖検例で、十代の小児の98%に、動脈硬化の初期病変である脂肪沈着が大動脈に認められ、なかには進行した段階のものも認められています。これは潜在している成人病であります。このような病変の大部分は可逆牲であり、適切な対策がとられるならば、かなりよく改善させうるし、少なくともその進行を遅らせることができると考えられています。第3群、動脈硬化促進の危険因子を小児期にすでにもっているもので、いわば成人病予備軍(肥満児、高脂血症児、高血圧児など)であります。
平成8年に厚生省は、成人病を生活習慣病と名称を変更し、生活習慣病は食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣がその発症、進行に関与する疾患群と定義しています。生活習慣病の中で、最も問題になっていることは、動脈硬化が早い時期に促進してしまうことで、動脈硬化促進の危険因子として(1)高血圧、(2)高脂血症、(3)低HDLコレステロール、(4)肥満、(5)糖尿病、(6)喫煙、(7)ストレス、(8)家族性因子(親の早期心筋梗塞、高血圧、糖尿病など)、(9)運動不足、があげられます。生活習慣病のような慢性疾患の進展には、多くの危険因子が関与していますが、危険因子を多くもつ程、また、−つ一つの因子の程度が強いほど、その疾患になる確率が高く、ハイリスク状態にあるといえます。最近、わが国において、35歳〜45歳の男性の虚血性心疾患受診率が高くなっていますが、これらの男性は小児期から危険因子を数多くもっていたものと考えられます。東京都内の高校生の調査で、危険因子を全くもってない者は10%弱であり、大半は1〜2つの危険因子をもっており、なかには4つ以上もっているハイリスク児もおります。 このようなハイリスク児はいずれもハイリスク状態にあることに気付いておらず、実際に、臨床的にはほとんどすべて無症状であります。肥満は動脈硬化の危険因子の一つでありますが、糖尿病、高脂血症、低HDLコレステロール血症、高血圧、それに運動不足を伴い易いので、特に問題になります。肥満、耐糖能低下、高脂血症、高血圧は死の四重奏と呼ばれています。肥満傾向児は、近年増加しており、最近の20年間に肥満傾向児の出現率は2〜3倍上昇しています。乳児肥満のうち約50%位が学童期肥満に移行し、学童肥満は8歳から増加しはじめ、12歳頃にピ一クがありますが、80%位が肥満成人になるといわれ、肥満治療の困難さを示しています。
動脈硬化指数は、総コレステロール値からHDLコレステロール値を差し引いたものをHDLコレステロール値で割ったもので表しますが、この動脈硬化指数が、肥満では高く、動脈硬化が早く進むことを示しております。また、中性脂肪も、肥満では高く、過食であることを示しています。
わが国の子ども達に高脂血症、肥満が増えた原因としては、食生活の洋風化による動物性脂肪のとりすぎ、飽食時代といわれる現代を象徴する過食と、子どもの望むままに食事、間食を与えるなど子どもに対する過保護や、全国的な都市化現象により遊ぶ空間の減少、少子化、高学歴志向により遊ぶ仲間の減少や遊ぶ機会の滅少、テレビを見る時間の増加、テレビゲーム、ファミコンの普及、学習塾に通う時間の増加などによる運動不足があげられます。運動の能力の劣るものは、動脈硬化指数が高くなっているという調査結果があり、平素から運動させ、運動好きにすることが重要であります。
両親のいずれか、あるいは、両方に肥満があると、子どもが太り易いといわれています。一旦太ってしまうと治療が容易でないので、特に、母親には肥満の害と予防について知っていただく必要があります。
小児肥満は、成長という因子が加わりますので、体重60Kg以下であれば、体重を現状維持とし、身長を伸ばして肥満度を次第に下げるのがよいし、中等度以上の肥満に対しては、食事制限による減量が必要となります。 ビタミン、カルシウムなどは十分にとり、バランスの良い食事でなけれはなりません。将来の骨粗鬆症の予防のためにも、20歳頃までに十分骨を育てておく必要があるからです。夜食をとると血清コレステロール値が高くなりますので、注意が必要です。
成人病予防のための食事指針として、(1)日本食、中華食、洋食などをミックスした雑食にする、(2)食品数を1日30品以上、週に100品以上にする、(3)低食塩にする、(4)砂糖をとりすぎない、(5)カルシウムを十分に、(6)植物繊維を十分に(7)固いものも与える、(8)偏食をしない、(9)味つけをおいしく、(10)間食を位置づける、(11)食卓に空腹でむかわせる、(12)食卓を楽しくする、があげられます。
乳幼児期は人格形成、生活習慣(ライフスタイル)形成の基礎となっている時期で、この時期に刷り込みされた摂取習慣、食嗜好、運動習慣などは、『三つ子の魂百までも』といわれるように、将来の生活習慣(ライフスタイル)を決めてしまいます。この時期の子育てが子どもの将来を大きく左右しますので、この面に対して十分な配慮が必要です。また、次世代の親となる子ども達、特に、中学、高校生には十分な保健教育をする必要があります。刷り込みされた習慣を改善するためには、繰り返し繰り返し根気よく保健指導、栄養指導することが重要です。